政治史学の領分の広さ

御厨貴センセイの最終講義をまとめた本。最終講義といっても全6回行われ、しかも客員教授である間は、このあとも単位のある講義としてまたやることになったらしい(笑)。6回構成。
第1回はオーラルヒストリー。オーラルヒストリーのことをよくしらなかったけど、聞き書きした回顧録などの形で作っていく歴史資料というような分野のよう。長年オーラルヒストリーをやってきた先生だけあって、いろんな政治家や官僚の話を聞いたときの裏話が面白い、宮沢喜一とか。小泉純一郎も。後藤田正晴と矢口浩一の2人のオーラルヒストリーを対比させて宮内庁・警察・裁判所の人事の関係なんかも分析したらしい、ちょっと気になる。
第4回の「建築と政治」では、先生が歴代首相官邸を訪ね歩いて考えたりした建築と権力の関係の研究の話で、それ自体とても面白いんだけど、最高裁判所の建物と権力の分析についての話も出てきて、これがひじょうに「なるほど」。裁判所側もがんばって「裁判とは」って説明したようなのだけど、建築家に具体的なイメージをもってもらえる説明ができず、裁判官・調査官・事務総局の面々の動線がよくわからないまま、旧最高裁と異なり完全に部署ごとに塊を分ける建物になり、権力側が想定していた以上に権力的で孤独な建物になってしまった。たしかにやたら歩かせる変な動線だな…とは自分や最高裁勤務経験者の話を聞いていても思うところ。建築によって権力がドーンと規定されてしまった例、という話。
そのほか、公共政策、書評やメディアの話に本分の政治学史の話題など。

どうも自分は、最近ようやく今行われてる政治が少し面白くなってきたぐらいで、それを超えて政治史まで深く興味を持つに至っておらず、大学1年生の時なんていっそうそうだったので、「先生と政治史を深く学ばせてもらいたい」とならなくて、それは悔やまれるような、でも多分もう一回大学1年に戻ってもやっぱりそうだっただろうなというようなだけど*1、この本で、本当に、先生の関心領域の広さ・好奇心旺盛さとそれぞれの掘り下げの深さを知ることができて、すごく面白かった。「政治史学からこんなところに行けちゃうんだ!」というような。
実際、研究の傍らというか、先生が実際に携わった国の政策も幅広く、この本で話題に上ったものとして、勲章制度、靖国問題、震災復興構想会議と。こういうのに呼ばれるもそれぞれの分野で「ブルドーザーでガーッと耕す」みたいなやり方でそれぞれ成果をあげてるからだろう。
「一つの分野をコツ、コツ」という研究者イメージをいい意味でぶっ壊しちゃう先生の学者生活の話、読む前は「どうかな」なんて思ってたけど、たしかに「知のエンターテインメント」という言葉が合う本でした。

*1:回りくどいけど要するに先生のゼミを高校の塾の先生からも紹介してもらってたのに、ほかにやりたいことがたくさんあったのと先端研までの距離と初回に読んだEHカーの「歴史とは何か」にそこまで入り込めなかったために結局ゼミを取らなかったという個人的な話