集団的自衛権について

昨日は衆議院予算委員会の中継・集団的自衛権についての集中審議を午前中・午後後半ずっとみていた。デキレースのような自民党議員との質疑応答で首相の理屈を聞くことができた。会見は見られなかったから、テンポの速くない質疑応答は首相の考えを知るのにちょうどよかった。

承前

前提として、集団的自衛権の定義は
「ある国が武力攻撃を受けた場合、これと密接な関係にある国が、その武力攻撃を自国の平和と安全を脅かすものとみなして、被攻撃国を援助して共同して防衛にあたる権利」(法律学小辞典)。


安保法制懇が集団的自衛権を認めようという理屈は、要約すると

  1. 「これまで個別的自衛権のみOK,集団的自衛権はNGとされてきた根拠は特にない。言い換えれば必要最小限度=個別的自衛権、ということに特別な根拠はない」
  2. 「『必要最小限度』が許される根拠は憲法前文と同13条」
  3. →「であれば憲法前文と同13条から導き出される範囲の集団的自衛権も許されていいはず」


安保法制懇の示す集団的自衛権発動の要件は以下の抜粋の通り。

我が国と密接な関係のある外国に対して武力攻撃が行われ、その事態が我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるときには、我が国が直接攻撃されていない場合でも、その国の明示の要請又は同意を得て、必要最小限の実力を行使してこの攻撃の排除に参加し、国際の平和及び安全の維持・回復に貢献することができることとすべき。
●そのような場合に該当するかについては、
① 我が国への直接攻撃に結びつく蓋然性が高いか
日米同盟の信頼が著しく傷つきその抑止力が大きく損なわれ得るか
③ 国際秩序そのものが大きく揺らぎ得るか
④ 国民の生命や権利が著しく害されるか
⑤ その他我が国へ深刻な影響が及び得るか といった諸点を政府が総合的に勘案しつつ、責任を持って判断すべき(地理的限定は不適切)。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/anzenhosyou2/dai7/gaiyou.pdf

これを踏まえてされた5/15の首相の会見で出された事例が以下の2つ(会見の抜粋)。

…今や海外に住む日本人は150万人、さらに年間1,800万人の日本人が海外に出かけていく時代です。その場所で突然紛争が起こることも考えられます。そこから逃げようとする日本人を、同盟国であり、能力を有する米国が救助、輸送しているとき、日本近海で攻撃があるかもしれない。このような場合でも日本自身が攻撃を受けていなければ、日本人が乗っているこの米国の船を日本の自衛隊は守ることができない、これが憲法の現在の解釈です。
 昨年11月、カンボジアの平和のため活動中に命を落とした中田厚仁さん、そして高田晴行警視の慰霊碑に手を合わせました。あの悲しい出来事から20年余りがたち、現在、アジアで、アフリカで、たくさんの若者たちがボランティアなどの形で地域の平和や発展のために活動をしています。この若者のように医療活動に従事をしている人たちもいますし、近くで協力してPKO活動をしている国連のPKO要員もいると思います。しかし、彼らが突然武装集団に襲われたとしても、この地域やこの国において活動している日本の自衛隊は彼らを救うことができません。一緒に平和構築のために汗を流している、自衛隊とともに汗を流している他国の部隊から救助してもらいたいと連絡を受けても、日本の自衛隊は彼らを見捨てるしかないのです。これが現実なのです。…
http://www.kantei.go.jp/jp/96_abe/statement/2014/0515kaiken.html

予算委員会での集中審議

民主党岡田克也氏「邦人を乗せた米国以外の第三国の艦船は守らなくていいのか。」
首相「米国が船を手配し、船籍が他国ということも当然ありうる。・・・米国以外の船はダメだと言っていない」


首相と岡田さんのやり取り全体から、私の理解としては、岡田さんは「米国のような日本と密接な同盟関係を有する国、ではない国」が攻撃を受けた場合に、邦人を乗せた艦船を守らなくていいのか、という質問だと思うのだけど、首相はあくまで「米国が攻撃を受けた場合」に限って応答している。仮にそうでないとしても、「米国以外の船はダメだと言っていない」という発言からは、「我が国と密接な関係のある外国」=同盟国であるアメリカ、だけでなく、同盟国でない国の船にも行使対象が広がる可能性があり、集団的自衛権行使の要件は、包括的にならざるを得ない。

首相が先般挙げた例はいずれも「日本人個人」が危機にさらされているときに助けられなくていいんだろうかという話だけれども、「海外(というか同盟国=アメリカ)にいる日本人が乗った船を助けるため」/「アジア・アフリカでボランティアとかしてる若者が突然武力集団から攻撃を受けたときに助けるため」(特にこの2つ目はどういう理屈で上記要件のもと集団的自衛権の行使が可能ということになるのかよくわからない)という限定的な場面のために集団的自衛権行使容認という強力すぎる解釈変更を持ち出す必要があるんだろうか。
岡田氏が言っていたように、船舶にかかわらず日本人がのっている船なら助けるという法構成ができないものか。首相も会見でいうとおり、日本人は世界中にたくさんいるわけで、「我が国と密接な関係のある外国」以外の日本人もたくさんいる。
集団的自衛権の行使はアメリカ関係に限られないからそもそも岡田発言はおかしい」という意見もあるようだけれども、安保法制懇の示す要件からも昨日今日の委員会でのやり取りからもほとんどアメリカが議論の念頭に置かれており現段階これ以外の国を特に想定しがたいことは明白。

閣議決定で解釈変更をすることについて

憲法9条が「絶対に集団的自衛権はどう読んだって認められない」というような文言でなく、多義的である以上、閣議決定で解釈変更をするのが違法だとはいえない。そして日本の現行制度では、違憲立法審査権を有する最高裁に持ち込むためには個別的な法律問題に帰着させないとこの政府の解釈の正当性を争うことはできない。どういう立て方をすれば間違いなく最高裁で争えるか、ちょっと今のところわからない。
「今回の解釈変更は立憲主義そのものを揺るがす大問題だ」という指摘も一理あるけれど、そういう憲法解釈に対して司法権が歯止めをかける仕組みがきちんとない、ということがより大きな問題として露呈したというような感じもする。


今日の午前中の参議院での委員会の中継も見ていたけれども、首相は「機雷の除去=武力行使にあたる」「機雷の除去を行うことは集団的自衛権行使の一対応である」と言いつつ「他国で武力行使をするということもあるということか」という質問に正面からYESと言わず回りくどい応答をしていたのも印象的だった。ニュースの映像などでそこだけ切り取られた場合のインパクトを避けるためか。